eggfirst
2020年5月2日

令和二年、学問のすゝめ。

「今日は早退します。」

コロナで完全リモートワークが始まってから2週間目の頭、どうしても仕事のやる気が出ず、社内メッセンジャーで早退の旨を送った時、自分の気持ちにギクリとした。

「なんで働いてるんだっけ?」

職場で仕事をしていたときは、上司や同僚とのコミュニケーションが沢山あり、評価されたいという気持ちをそのまま原動力とできたが、コロナ下ではそれもままならない。

コロナは「この仕事、なんでやっているの?」というストレートな疑問を僕に投げかけてきた。

現在、コロナの影響下で人とのコミュニケーションが減っていく上で、人との関係からモチベーションを得ることがより難しくなってきている。

こうした外在的なモチベーションに依存しにくいこの環境の下では、自分自身の内側から湧き出るモチベーション、つまり内的モチベーションがより重要になってきたと言えるだろう。

さて自分の内的モチベーションはというと、就活をしたころには明確にあったそれは、悲惨なことにいつしか完全に消え失せていた。

社会人になってエンジニアとして働いている僕は、最初こそコミュニケーションで大変な苦労をしたものの、よくも悪くも色々ともまれた結果、仕事ではそれなりに成果を出せるようになっていた。

ただ、そうやって評価されていく中で、いつしか承認欲求の満たされた、視野狭窄的人間になり下がっていた。口では「世の中を変えるようなサービスを作りたい」と言いながら、本音では認められることしか考えていない自分だけが取り残されていた。

それに気づいてから、僕の仕事に対するやる気は減退の一歩をたどった。別に会社や同僚がきらいなわけじゃない。ただ、仕事をする理由が見つからないのだ。ひどいときは一日かけて2時間分の仕事しかできなかった日もあった。

一方でやる気が出ない中、仕事が終わった後に少しずつ、大学の友達や同居人との対話を通じてやる気の減退の理由も模索も行っていった。そして週末になったころには、自分の中で答えが出ていた。

僕はどうやら、この社会が今後どう変容していくかについて、自分なりのビジョンを失っているみたいだった。

そしてそれは、大学に身につけた、社会を分析しをその今後を考える習慣を失ってしまったからに違いなかった。

僕みたいに、漠然と価値があることがしたいと思うような人間は、今後の社会のビジョンをしっかりもたないと、自分が何がしたいか、何をすべきかなんて、分かるわけがないのであった。

僕の大学時代の専攻は、社会科学であった。

社会科学とは、政治学・経済学・社会学・経営学等、社会に関連する科学の総称である。

社会科学の諸学問は、社会でこれまでに起きたこと、今起こっていることを分析し、未来への示唆を手に入れるある種の思考フレームワークを提供してくれる。僕が入った学部は、そういった諸学問を総合的に勉強できる学部だったため、一つの分野にとらわれない複合的な視野を勉強することができた。

そして当然だが、理論を使うするためにはその材料が必要である。

現状を把握するためのニュースも重要だが、同時に重要なのは歴史だ。

社会科学では、対象は社会なのでそれをそのままサンプルとして複製はできない。

過去の事象、つまり歴史を仮のサンプルとすることで、結果の妥当性を高めることが非常に多いのである。

歴史やニュース等を、理論にあてはめることでそこから示唆を手に入れることは、さながら料理をすることに近い。材料を調味法に通すことで、料理ができあがるのと同じだ。

料理も社会科学も、試行錯誤が大事だ。

そうこう思いを巡らせているうちに、授業をうけてなんとなく得た知識が思いがけない所で利用できたワクワクを少しずつ思い出していた。

「まずは材料からかな、歴史から復習しようか…。」

いまから歴史なんてとバカバカしい思う自分もいた。でもこれをやらないと、一生自分がなにがしたいかを見失ったままになってしまうかもしれない。そう思った僕は、実家に急ぎ電話をし、浪人時代に愛用していた歴史の教科書を送ってもらうように言った。

「21世紀が、かつてない激動の世紀になることはたしかなことです。皆さんが、大きな歴史の流れの中からもいろいろなヒントを見つけて、検討されることを心から期待します。(1)」

一昨日、浪人時代に散々読み倒した4刊構成のナビゲーター世界史の最後の文章を読み終わった。受験の時には響かなかったフレーズが、このご時世ということもあり、強く響いた。徹夜で世界史を勉強したときの、達成と倦怠の間にある心地よい感触を久々に味わいながら、朝日が登る中その日はすとんと眠りに落ちた。

外出自粛のいまだからこそ、皆さんも学問を勉強して、コロナを乗り越えた社会がどうなっているかを考えてみてはいかがだろうか。

(1)鈴木敏彦『ナビゲーター世界史B ④帝国主義〜現代史の徹底理解』山川出版社、2016年。

© 2020 Takayuki Cho